大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和38年(行)1号 判決 1965年3月24日

原告 飯島浩三

被告 大宮市長・大宮市

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告大宮市長が昭和三七年一一月一六日原告に対してなした懲戒免職処分を取消す。被告大宮市は原告に対し金二三九、九〇四円を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。

一、原告は昭和二二年六月一日大宮市事務吏員となり勤務中のところ、昭和三七年八月三一日被告大宮市長は原告に対し別紙第一の理由により懲戒免職処分を行つたので、原告は同年九月四日大宮市公平委員会に対し審査請求を行い審理中、被告大宮市長は同年一一月一五日右懲戒免職処分を取消した。しかるに被告大宮市長はその翌一六日別紙第二の理由により原告に対し再び懲戒免職処分(以下本件懲戒免職処分という)を行つた。

原告は右処分について同年一一月一七日大宮市公平委員会に対し審査請求を行つたところ、同委員会は昭和三八年二月二六日処分承認の判定をした。

二、しかしながら本件懲戒免職処分は次のとおり違法なものであつて取消されるべきものである。

(1)  原告には上司の職務上の命令に違反する行為はなかつた。すなわち、原告の職務は地方公務員法第二四条第六項により条例で定められた範囲内に限られるから、衛生課勤務当時にあつては大宮市役所部課設置条例(昭和三〇年七月一四日条例第二三号)に、支所勤務当時にあつては大宮市支所設置条例(昭和二二年六月一八日条例第一〇号)にそれぞれ明示された事務に限られるべきところ、別紙第二掲記の事務は条例に明示された事務ではない。従つて原告に上司の職務上の命令に違反する行為があるとはいえない。

原告は、被告大宮市長が昭和三六年一〇月一一日原告に対し国民年金印紙売りさばき命令を発したのに対し、忠実に右命令に服従している。

(2)  徴税及び国民年金印紙売りさばきは大宮市出納員規則(昭和三三年一〇月三一日規則第九号)に、市収入証紙売りさばきは大宮市収入証紙規則(昭和三三年年三月三一日規則第一号)に、いずれも支所においては出納員が行うことを明定してある。しかるに原告は出納員に任命されたことはないのであるから、これらの事務を執行する義務はない。

原告が勤務した春岡支所では昭和三五年一二月一日支所長として任命された中村文雄が同時に出納員として任命されたのであるから前記事務は同人自ら執行する義務があることはいうまでもなく、同人が前記事務を他の職員に命令して行わせる権限はない。

(3)  労働基準法の規定は同法第八条第一六号により官公署にも適用されるのであるから同法第二〇条により解雇には一ケ月の予告期間を必要とするところ、本件処分は予告期間なくして解雇を行つたことに該当する。

(4)  仮りに別紙第一及び第二記載の理由が懲戒事由に該当するとしても、これを理由として懲戒免職処分を行うことは著しく苛酷な処分であつて懲戒権の濫用である。

(5)  別紙第一及び別紙第二の第一項から第三項までは両者全く同一事実である。従つて被告大宮市長は一旦懲戒免職処分を行いこれを取消した後、更に取消の翌日に同一理由により再び懲戒免職処分を行つたものである。右によれば、前の懲戒免職処分からその取消に至るまでの原告の身分喪失期間中(昭和三七年八月三一日から一一月一五日まで)に被告大宮市長が第二回の懲戒免職処分を決定したことは明らかで、原告の地方公務員としての身分喪失中に決定された本件処分は違法である。更に本件懲戒免職処分は一事不再理の原則または行政行為の不可変更性の原則に反するものである。

(6)  職員の懲戒の手続は条例で定めなければならない(地方公務員法第二九条第二項)、大宮市ではこれに基き、「職員の懲戒の手続及び効果に関する条例」(昭和二六年九月二七日条例第三九号)を定めている。しかし、その第五条で手続の大部分を規則に委任してあり、その規則は未だ制定されていない。従つて本件懲戒免職処分は法定の手続を履むことなく行われた違法な処分である。

(7)  職員の懲戒免職処分を行う場合は、被処分者に対し懲戒事由に当る事実を告知し、かつ被処分者をして充分に弁明せしめる余裕と機会を与えるのでなければ、地方公務員法第二七条第一項に定める公正の原則に反するものというべきところ、本件懲戒免職処分はこれを欠いた違法な処分である。

三、以上のとおり被告大宮市長の行つた本件懲戒免職処分は取消されるべきものであるので、原告は被告大宮市に対し処分の日以降の左記給料及び諸手当の支払いを求める。

(1)  昭和三七年一一月分(但し半月分)、一二月分、昭和三八年一月分、二月分、三月分の給料及び手当の合計一六一、六四〇円(一ケ月分の給料及び手当は、給料三二、七〇〇円、扶養手当六〇〇円、暫定手当二、四二〇円、通勤手当二〇〇円、合計三五、九二〇円)、

(2)  昭和三七年一二月一五日に支給すべかりし年末手当七八、二六四円(給料及び暫定手当の合計額の二、二ケ月分に一、〇〇〇円を加えた額)。

合計二三九、九〇四円

被告ら訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁並びに主張として次のとおり述べた。

請求原因第一項の事実は認める。

請求原因第二項中、次の事実はこれを認めるが、その余は争う。

(1)  記載の、被告大宮市長が原告主張の日に原告に対し国民年金印紙売りさばきについて職務上の命令を発し、原告が右命令所定の職務に従事したこと(但し昭和三六年一一月一一日から昭和三七年二月一四日までの期間)、

(2)  記載の、原告が出納員に任命されていなかつたこと、春岡支所長中村文雄が出納員に任命されていたこと、

(5)  記載の、別紙第一及び別紙第二の第一項から第三項までは、両者に表現上多少の差はあるが実質的に同一であること、

(6)  記載の、大宮市において原告主張の規則が未だ制定されていないこと、

請求原因第三項中、原告に対する扶養手当、暫定手当及び通勤手当の額並びに被告大宮市の吏員に対する昭和三七年下半期分の期末手当及び勤勉手当が同年一二月一五日を基準日として支給されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告大宮市長は別紙第二の理由により原告に対し本件懲戒免職処分を行つたものであり、右理由に掲げる原告の行為はいずれも地方公務員法第二九条第一項第一号所定の懲戒事由に該当し、本件懲戒免職処分に違法の点はない。

また本件懲戒免職処分が適法有効なものである以上、原告の被告大宮市に対する金員請求も失当である。

(証拠省略)

理由

一、被告大宮市長が昭和三七年八月三一日大宮市事務吏員たる原告に対し別紙第一の理由により懲戒免職処分を行い、これに対して原告が大宮市公平委員会に審査請求を行つていたところ、被告大宮市長は同年一一月一五日右懲戒免職処分を取消し、翌一一月一六日別紙第二の理由により再び懲戒免職処分(本件懲戒免職処分)を行つたこと、原告は右処分について同年一一月一七日大宮市公平委員会に対し審査請求を行つたところ、同委員会が昭和三八年二月二六日処分承認の判定をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで懲戒事由の有無について検討する。

(一)  分任出納員任命の辞令書を返戻した行為(処分理由(1))

証人関根保一の証言、成立に争いのない甲第四号証によれば、原告が大宮市衛生課勤務当時、被告大宮市長は予防接種実費徴収等を行わせるため原告に対し昭和三五年一月九日付で分任出納員任命の発令をしたこと、これに対して原告はその辞令書を返戻したこと、被告大宮市長は昭和三五年五月一日原告が春岡支所に転任したので分任出納員を解任したこと、その間原告は事実上予防接種実費徴収等の事務を行つたこと、以上の事実を認めることができる。

分任出納員は地方自治法第一七一条(昭和三八年法律第九九号による改正前)に基いて普通地方公共団体の長が、事務吏員の中から必要に応じて命じ得るもので、被告大宮市長の原告に対する右分任出納員任命は適法な職務命令というべきである。これに対して原告がその辞令書を返戻したことは、たとえ原告が事実上予防接種実費徴収等の事務を行つたとしても、上司の職務上の命令を積極的に拒否する態度を示したものといわなければならない。従つて右は地方公務員法第三二条に違反し、同法第二九条第一項第一号に該当する。

原告は、原告の職務は衛生課勤務当時にあつては大宮市役所部課設置条例に明示された事務に限られるべきであるから、分任出納員任命の辞令を拒否しても上司の職務上の命令に従わないことにはならない旨主張するが、右は原告独自の誤つた見解であつて全く理由がない。

(二)  昭和三六年六月中旬国民年金事務一切を拒否した行為(処分理由(2))

証人関根保一、前原正雄、蓮見高、中村文雄の各証言、いずれも成立に争いのない乙第三、四号証によれば、原告は昭和三五年五月一日付で春岡支所勤務を命ぜられたこと、大宮市においては昭和三六年四月から国民年金に関する事務が行われることになり、同月から各支所にも右事務を分掌させたこと、当時大宮市支所設置条例には支所の分掌事項として国民年金に関する事務は明示されていなかつたが、右条例第二条第一五号(改正前)に定める「その他市長の指示した事項」として国民年金に関する事務を各支所に分掌させたものであること(後に右条例は支所の分掌事項として国民年金に関する事務を明示するように改正され、同年四月一四日から遡及適用された)、国民年金事務の取扱については昭和三六年四月一二日開催の支所長会議において各支所長に対しその実施が命ぜられ、同月二七日開催の事務担当者会議においても担当課から重ねて説明がなされたこと、春岡支所においては支所長は原告に対し、原告が当時担当していた徴税事務及び市収入証紙売りさばき事務に併せて国民年金に関する事務(国民年金印紙売りさばき事務及び同代金収納事務を含む)を命じたところ、原告は昭和三六年六月中旬支所長に対し、いま国民年金事務については市長に照会中であるからやることはできない、出納員であるあなたがやれ、といつて一切の書類や印紙を支所長に返戻したこと、支所長は原告に対して引続き右事務を執行するように命じたが、原告はこれに応じなかつたこと、以上の事実を認めることができる。

支所長の右命令が適法な職務命令であることは明らかで、これを拒否した原告の行為は地方公務員法第三二条に違反し、同法第二九条第一項第一号に該当する。

原告は、原告の職務は大宮市支所設置条例に明示された事務に限られ、国民年金事務はこれに含まれないから、原告の行為は職務命令違反にはならない、と主張するが、前記のとおり大宮市支所設置条例第二条第一五号(改正前)には支所の分掌事項として「その他市長の指示した事項」が掲げられ、改正後の右条例には国民年金に関する事務が明示されており、原告の右主張は全く理由がない。

(三)  昭和三七年二月一五日以降国民年金事務のうち国民年金印紙売りさばき事務を拒否した行為(処分理由(3))

証人関根保一、中村文雄の各証言、いずれも成立に争いのない乙第一号証、乙第二号証の二、乙第三、四号証によれば、原告は昭和三六年六月一七日付で「国民年金事務の疑義について」と題する書面で被告大宮市長に質疑し解答を求めたこと、これに対して被告大宮市長は同年一〇月一一日付の「国民年金事務について」と題する書面を原告に交付し、右書面において、国民年金事務、殊に国民年金印紙売りさばき事務についての市長の法律上の見解を示し、上司の命令に服従せず国民年金事務を取扱わないことは地方公務員法第三二条に違反することを指摘し、印紙売りさばき事務を忠実に執行するよう命令したこと、しかるに原告は昭和三七年二月一五日支所長に対し、「市長を告訴するから見解を異にする国民印紙売りさばき事務は今日限り出納員に返戻する」といつて右事務の執行を拒否し書類を支所長に返戻したこと、以上の事実を認めることができる。

原告の右事務の拒否は上司の職務上の命令に対する拒否であつて地方公務員法第三二条に違反することは明らかで、同法第二九条第一項第一号に該当する。

原告は、国民年金印紙売りさばきは大宮市出納員規則によれば、支所においては出納員が行うと明定してある、しかるに原告は出納員に任命されたことはないから、これらの事務を執行する義務はない、と主張するが、出納員でない事務吏員が収入役、出納員の事務をその監督の下に補助することを禁止すべき法令上ないし条理上の根拠はないのであるから、出納員でない事務吏員は地方公共団体の長の勤務命令があるときは、出納その他の会計事務に従事する義務がある。(原告が出納員に任命されていなかつたこと及び春岡支所長中村文雄が出納員に任命されていたことは当事者間に争いがない。)従つて原告は出納員ではないが勤務命令により、出納員たる支所長の監督の下に国民年金印紙売りさばき事務に従事する義務があるものといわなければならない。原告の右主張は独自の見解であつて理由がない。

(四)  徴税事務及び市収入証紙売りさばき事務を拒否した行為(処分理由(4))

証人関根保一、中村文雄の証言、成立に争いのない乙第三、四号証によれば、原告は昭和三六年一〇月一六日支所長に対し、「出納員でないから一切返す」といつて徴税事務及び市収入証紙売りさばき事務を支所長に返戻したこと、これに対して支所長は引続き右事務を執行するように命令したが応ぜず、翌一七日関係書類一切を支所長に返戻して右事務の執行を拒否したこと、を認めることができる。

原告の右行為が上司の職務上の命令に対する拒否であることは明らかで、地方公務員法第三二条に違反し、同法第二九条第一項第一号に該当する。

原告は、徴税及び市収入証紙売りさばき事務は出納員が行うべきもので、出納員でない原告にこれを執行する義務はないと主張するが、(三)に述べたところと同様理由がない。

三、原告は、本件懲戒免職処分は労働基準法第二〇条所定の三〇日の予告期間なくして行われた解雇に該当するから違法であると主張するので、この点について判断するに、地方公務員に対する懲戒免職処分につき労働基準法第二〇条が適用される余地はないものというべきである。従つて原告の右主張は理由がない。

四、原告は、原告の行為が懲戒事由に該当するとしても、懲戒免職処分は著しく苛酷な処分であつて懲戒権の濫用であると主張するので、この点について判断するに、前記認定のとおり原告の各行為は、いずれも原告が独自の誤つた見解に基いて上司の職務上の命令を拒否したものであつて、国民年金事務の執行を拒否している原告に対し、被告大宮市長が昭和三六年一〇月一一日付の文書で国民年金事務についての市長の法律上の見解を示して右事務を忠実に執行するように命令したにも拘らず、今度は、国民年金事務は行うが徴税事務及び市収入証紙売りさばき事務を拒否する態度に出で一向に反省の色を見せず、遂に昭和三七年二月一五日以降は国民年金印紙売りさばき事務をも拒否するに至つたもので、情状は極めて重いものと認められ、これら原告の行為に対して被告大宮市長が懲戒免職処分をもつて臨んだことは相当の措置であつて、原告の右主張は理由がない。

五、原告は、被告大宮市長は原告に対し一旦懲戒免職処分を行い、これを取消しながら、取消の翌日に同一理由により再び懲戒免職処分を行つたものであつて、右は原告の地方公務員としての身分喪失中に決定された違法があり、かつ一事不再理の原則または行政行為の不可変更性の原則に違反すると主張するので、この点について判断する。成立に争いのない甲第二、三号証によれば、本件懲戒免職処分は、処分発令年月日、処分効力発生年月日及び処分説明書交付年月日がいずれも昭和三七年一一月一六日であることが認められ、さきの懲戒免職処分取消(昭和三七年一一月一五日、この取消により初めより右免職処分はなかつたことになる)の後になされたことは明らかで、本件懲戒免職処分が原告の地方公務員としての身分喪失中に決定されたという原告の主張はその前提を欠いている。また行政庁がその処分をひとたび取消したからといつて、再び同じ処分をすることが、一事不再理の原則もしくは行政行為の不可変更性の原則に照らし、常に違法であるとはいえないのであつて、別紙第一の処分理由と別紙第二の処分理由はその重要部分において重なり合うものであるが、別紙第二において処分理由を一層明確にしたに過ぎないものと認められ、さきの懲戒免職処分を取消(この取消は妥当ではないが)して新たに本件懲戒免職処分をしたことに少くとも違法の点は認められない。

六、大宮市においては、地方公務員法第二九条第二項の規定に基いて「職員の懲戒の手続及び効果に関する条例」を定め、その第五条で「この条例の実施に関し必要な事項は規則で定める」とうたつているが、その規則は未だ制定されていない。そこで原告は、大宮市においては懲戒処分の手続に関する大部分の規定が制定されておらず、結局本件懲戒免職処分は法定の手続を履むことなく行われた違法があると主張するが、右条例には懲戒の手続、減給の効果、停職の効果等が定められ、その第二条には「戒告、減給、停職又は懲戒処分としての免職は、その旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならない。」と定めてあり、懲戒の手続規定に欠けるところはない。本件懲戒免職処分は地方公務員法及び右条例の規定に基いてなされたもので、原告の右主張は理由がない。

七、原告は、本件懲戒免職処分は原告をして充分に弁明せしめる余裕と機会を与えていない違法があると主張するので、この点について判断するに、かような機会を与うべきことについては法令上ないし条理上その根拠を見出し難い。のみならずさきに認定したとおり、原告は「国民年金事務の疑義について」と題する書面を被告大宮市長に提出し、国民年金事務の執行を拒否していたところ、被告大宮市長より昭和三六年一〇月一一日付の文書で、かかる態度が地方公務員法第三二条の規定に違反することを警告され、併せて右事務を忠実に執行するよう命令されたにも拘らず、今度は徴税事務及び市収入証紙売りさばき事務を拒否し、後に国民年金印紙売りさばき事務をも拒否するに至つたもので、弁明をなす充分な余裕と機会がなかつた旨の主張は到底認めることはできない。

八、以上のように本件懲戒免職処分には何等違法の点が認められないから、被告大宮市長に対しその取消を求める原告の請求は棄却を免れない。

また本件懲戒免職処分が適法である以上、被告大宮市に対する原告の請求もその前提を欠き、棄却を免れない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長濱勇吉 伊藤豊治 杉山伸顕)

(別紙第一)

昭和三十七年八月三十一日懲戒免職処分説明書中の処分の理由

(1) 被処分者は昭和二十二年六月一日大宮市書記に任命され、大砂土東支所勤務を命ぜられたが、昭和二十九年十二月二十八日付衛生課勤務を命ぜられ、同課に勤務当時、昭和三十五年一月九日付で予防接種実費徴収等を行わせるため、大宮市出納員規則に基き、分任出納員に任命発令されたが、この任命については、被処分者が地方自治法の誤つた独自の見解に基き辞令書を返戻し、本職の適法な職務上の命令を拒否した。

(2) 被処分者はその後昭和三十五年五月一日付春岡支所勤務を命ぜられ現在に至つたものであるが、その勤務中において大宮市が昭和三十五年四月から国民年金に関する事務を支所において行うことを定め、春岡支所においては支所長は被処分者が現に担当していた徴税、市証紙売りさばき事務に併せて、国民年金事務を行うことを命令したが、同年六月中旬その職務上の命令を拒否した。

(3) 昭和三十六年六月十七日「付国民年金事務の疑義について」と題して、本職に対し質疑し、回答を求めたのに対し、同年十月十一日付関係法規の解釈上に正しき見解を与え、同時に支所長の職務上の命令に従う義務の規定違反を指摘するとともに、該事務を忠実に執行するよう命令した。

ところが昭和三十七年二月十五日法解釈上見解を異にするとの理由により、その職務上の命令に反し該事務の執行を拒否した。

(4) また、昭和三十六年六月九日以来数次にわたり一部の市民および職員に対して、単に被処分者独自の見解に基く文書を作成配付したが、その文書中には、市行政の施策をひぼうし、やゆするが如き言辞を弄し或は誤解を招くものがあつた。

(5) 昭和三十六年十月初旬頃、大宮市大字深作四二一九番地遠藤喜久江が春岡支所におもむき、老令年金について質問教示を乞うたのに対し、支所は年金事務を取扱うことに定められており職員は全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し且つ職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならないにもかかわらず一片の誠意を示すことなくこれを拒否した。

以上の事実は公務員として当然守るべき職務上の義務に違反したのみならず、本市役所における職員の職務遂行に対する考え方に混乱を生ぜしめるおそれもあり、ひいては行政能率にも影響するおそれがあつて、国民年金事務関係に関しては再度に及ぶ職務命令に対しても自説をひるがえすことなく提訴したが被処分者の主張は却下されているのである。

本職はここに被処分者は地方公務員法第二十九条第一項各号に該当するものと認め、職員の懲戒の手続き及び効果に関する条例に基き上記のとおり処分する。

(別紙第二)

昭和三十七年十一月十六日懲戒免職処分説明書中の処分の理由

(1) 被処分者は昭和二十二年五月二十三日、大宮市書記に命ぜられ、大砂土東支所勤務を命ぜられたが、昭和二十九年十二月二十八日付、衛生課勤務を命ぜられ同課に勤務当時昭和三十五年一月九日付で予防接種実費徴収等を行わせるため、本職が適法に分任出納員を任命発令したにもかかわらず、地方自治法の誤つた独自の見解に基づき、その辞令書を返戻した。

(2) 被処分者は、昭和三十五年五月一日付春岡支所勤務を命ぜられた。

大宮市は昭和三十六年四月から国民年金に関する事務を大宮市支所設置条例により、同印紙売りさばき代金の収納事務を大宮市出納員規則により、それぞれ支所において行うことを定めた。

なお印紙売りさばき事務については、同年四月十二日支所長会議において、国民年金印紙売りさばきに関する事務取扱要領に基づき支所において行うことを命令した。春岡支所においては、支所長は被処分者が現に担当していた徴税事務および市収入証紙売りさばき事務に併せて、上記条例、規則および職務上の命令に基づき、国民年金に関する事務、国民年金印紙売りさばき代金収納事務および同印紙売りさばき事務を行うよう被処分者に命令した。

被処分者は、昭和三十六年六月中旬「唯今、市長に疑義の点について照会中であるから国民年金事務は一切できない。」と一切の書類、印紙を返戻された。これに対して、支所長は、該事務を引続き執行するよう命じたが、これに応じなかつた。

(3) 昭和三十六年六月十七日付「国民年金事務の疑義について」と題して、本職に対して質疑し解答を求めたのに対して、本職は昭和三十六年十月十一日付関係法規の解釈上に正しき見解を与え、同時に支所長の職務上の命令に従う義務あることを指摘するとともに、印紙売りさばきを忠実に執行するよう命令した。

ところが、昭和三十七年二月十五日「十六日市長を告訴するから見解を異にする国民年金印紙売りさばき事務は今日限り出納員に返戻する」と云つて該事務の執行を拒否して、本職の上述の命令に服従しなかつた。

(4) 昭和三十六年十月十六日突然徴税事務および市収入証紙売りさばき事務を「出納員でないから一切返す」と云つて、支所長にその事務を返したので、支所長は引続きその事務を執行するよう命令したが応ぜず、翌十七日該事務関係の書類一切を返戻し、その事務の執行を拒否して、支所長の職務上の命令に服従しなかつた。

以上の事実は地方公務員法第二十九条第一項第一号に該当するものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例